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多数の工作機械を保有する請負工場が目指したBtoC事業への第一歩

 
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典型的な請負型の自動車部品メーカー

 ミツハシ社(仮称)は社員30名の自動車向けエンジンバルブをメインに製造する工場です。 創業40年、現在は創業者の孫にあたる3代目が社長を務めています。 同社の強みは豊富な工作機械を保有していることです。 エンジンバルブにおいては、エンジンユニット毎に求められる形状や性能が異なるため、常に従来に無い技術が求められてきました。
 部品の伸ばし、削り、叩き・・等を全て自社で賄うという2代目の方針に従って設備投資を進めた結果、社員数以上の工作機を保有するに至りました。 3代目は社員に対して好きなだけ工作機を使って新しアイデアを出すよう声掛けを続けた結果、社員は高いスキルを身に着け、難易度が高く利益率の高い案件を受注できるようになり、工作機1台当たりの平均稼働率が低い中でも順調に設備の投資回収は進んでいます。 受注は全て販社を通す請負型であり、提案型の営業活動はこれまでおこなっていません。 販社はミツハシ社のワンストップ生産体制と技術力を高く評価し、両者は信頼関係を築いてきました。

電気自動車への転換期とウィルス禍のダブルショック

 今、自動車部品製造業界は大きな岐路に立たされています。 電気自動車の台頭により、部品によっては完全に不要となるリスクを孕んでいるからです。 ミツハシ社のエンジンバルブも、モーター駆動となる電気自動車においては使われないでしょう。 しかし今は過渡期であり、この先どれ位の勢いで電気自動車に置き換わっていくのか予測できません。 置き換わりの波が強くなってから次のアクションを起こすのでは遅いとわかりつつも、請負元から長期方針が出されない以上、次なるアクションを起こすことは出来ずにいました。  
 そのような中で世界中の自動車産業が大きな低迷期を迎えています。 新型ウィルスの蔓延防止のため、都市のロックダウン含めた強い移動制限が発動されているためです。 その波はミツハシ社にも強く影響を及ぼし、受注量は大幅に落ち込みました。 利益率の高い受注が取れていたとはいえ、完成車メーカーが強いコストダウン施策を打ち出した事で利益の低下も受け入れざるを得ない状況となりました。   

社員のモチベーションを上げるために一般消費者向け事業を検討

 会社経営が厳しい状況下では、社員にもコスト削減の意識を強めなければなりません。 しかしこれまで自由な仕事環境を提供していた中での締め付けは、社員のモチベーションを大きく低下させました。 モノづくりの楽しさを語り合う職場が、「数字」を追い求める職場になっていたのです。 社員とは家族以上の付き合いの長さのある社長です、気力の落ち込みは言葉で言われなくとも肌で感じ取ることができます。 何とか社員を元気づける方法は無いか、社長が考えた時にある事を思い出しました。 「以前突発的にスキー板の特注品や美術大学から屋外造形品の製造を依頼された時、社員達はとても楽しそうにアイデアを出して、いきいきと働いていた。 また一般消費者向けの商品をできないものか。」
 しかし請負業務一筋であった以上、一般消費者向けの事業を立ち上げようにもノウハウがありません。 「あの時のように、社員はいろいろとアイデアを出してくれるに違いない」 そのような期待もあり、社長は一般消費者向け事業の立ち上げについて専門家へ相談する決意をしました。   

折角の強みも元受けへの配慮からアピール出来ずに

 相談を受けた専門家は工場内を一通り視察しました。 事前に話を聞いていたとはいえ、工作機の数の多さには圧倒されました。 競合他社に無い種類の工作機を所有することで多くの受注を勝ちとってきたと社長が誇りにするのも頷けます。 しかしもともと低い稼働率の中で受注も落ち込んでいる状況につき、大半の機械は動きを止めていました。 その姿は初めて工場を訪れた専門家の目にも寂しいものであったため、そこで働く人にとってはさぞかし辛い思いで機械と向き合っているものかと考えるのは断腸の思いでした。
 また同時に、突発的に一般消費者向け商品を受注できてもこれだけの設備の投資回収は厳しいと思えました。 しかしまとまった数を得るための消費者ニーズを掴むことは容易ではありません。 ましてや請負一筋のミツハシ社にはマーケティングノウハウは存在しませんでした。 同社ホームページを見ても、豊富な工作機を所有することは謳われていても、それを使って何ができるかまでは言及されていない点にもったいなさを感じました。 社長にこの点について聞いてみると「請負元の販社に遠慮する必要があるため、表現を抑えている」と語ってくれました。 付き合いの長い販社への配慮では止むを得ません。   

長の本当の悩みは、社員のモノ作りへの情熱を消したくないという思いだった

社長からは一般消費者向けの商品開発に関する課題相談でしたが、本当に抱いている危機感は

・社員がモノづくりへの楽しさ、情熱を失っている状況
  →この情熱こそが同社の何よりの強みであり、この火が消えてしまうと多数の工作機が残ったとしても会社として存続することはできない
・販社への配慮のために、外部へアピールしたくてもできないもどかしさ
  →かといって販社にも一般消費者向けの商品マーケティングできるスキルは無く、受注がもらえる見込みは無い

 この工場の真の強みは社員のモノづくりを楽しめる姿勢である。 しかしこのままの状況では会社体力にも限界があり、社員を路頭に迷わせることになってしまう。 八方塞がりの中、どこかに突破口はないものか。
専門家は次の提案をおこないました

1.一般消費者向け事業の前に、マーケティング力を社内に保有すべく、まずは自動車産業以外の企業向けの新事業を立ち上げる
2.社員がこれまで培った技術と知恵を持ち寄り、どの業界の事業へ打って出るべきかのアイデア出しをおこない、モチベーションを高める
3.会社ホームページ以外のWEBページを制作し、そこでターゲットに決めた事業へむけて自社の技術力を強く訴求する

 販社への配慮のために会社ホームページ上での技術アピールは回避する手法は理解するものの、それで本当に読み手に対して「技術」と「信用」の両方が伝わるのか社長には確信が持てず、具体的なやり方も検討がつきませんでした。 その点について専門家に相談したところ、幸いにも専門家がノウハウを保有しており、仕組みの提供も受けられる事になり、社長は1つのハードルを越えた気持ちになり、あとは決断を下すばかりとなりました。 「万が一、想定外の事態が発生し、このWEBページが継続出来なくなったとしても取り下げれば良いだけで、会社ホームページへの悪影響は無い」と割り切って考え、専門家の提案を受け入れました。   

根気よくアピールを続けた結果、ついに異業種からのパートナーを獲得

 まずは社員が自信のスキルと工作機との組み合わせでどのような加工が出来るかを全て洗い出す作業から始めました。 この場では社員のアイデアについて否定をする事なく、可能な限り広げていくことがポイントです。 広がりきったところで、次は分類を進め、数を収束する作業に入ります。 こうして絞り込まれたアイデアをWEBページに落とし込み、設定したターゲットへ向けて発信を開始しました。
 この時点で既に社員達は自分の意見が社外に発信された喜びでモチベーションが高まっていることを社長は感じ取ることができました。 発信後すぐには結果は出てきませんでしたが、少しづつ問い合わせが来るようになり、その反応の内容をWEBページに反映するという試行を繰り返すうちに問い合わせの数も明らかに多くなり、面談に至る件数も高まっていきました。 そしてついに音楽楽器関連工場とのパートナー契約に至りました。 この工場は斬新なデザインを持つ楽器のアイデアはあったものの、特殊な金属加工を要するために引き受けてくれる工場が見つからなかったのです。 折角の音色を世の中に出すことができず、ずっと悔しい思いをしていたそうです。 そこでようやくミツハシ社が発信する加工技術を詳細に紹介するWEBページにたどり着き、これだ!との直観が働いたそうです。 アイデアを形に出来ることができて感激もひとしおのようでした。 このままエンドユーザーに届けられぬまま終わってしまうのか・・という不安からようやく解放され、今はユーザーの笑顔を思い浮かべながら仕事ができるそうです。
 ミツハシ社の社員は自動車以外のエンドユーザーを間接的ではありながら笑顔にできたことを誇りに思い、「困っている人を助ける社会貢献のような感覚を持つ事ができた」との意見も多数出ました。こうして社員のモノづくりに対する情熱の火は消えず、以前とは異なる炎の色となって燃え始めたと言えましょう。 ミツハシ社は他人(販社)に自社の運命の全てを握られることのない第一歩を踏み出すことができたのです。   

改革の原動力は数字ではなく、社長の秘めた思い

 この事例のポイントは、一般消費者向け事業という社長の思いの裏側にあった、「社員のモノづくりに対する情熱の火を消したくない」という社長の内なる思いを言語化できたことです。 そしてその思いが、販社への配慮をしつつ外部へアピールする仕組みの導入に当初不安のあった社長の決断を後押しした事です。 モノ作りの情熱と併せ、社会貢献への喜びを知ったミツハシ社の社員は、今後益々同社の発展に寄与していくことでしょう。